「医学はアート」を体現するこのスキルを身につけ伝えてほしい

2023/11/25

The practice of medicine is an art, based on science.


今日の医学教育の基礎を築いたとされるカナダ人医師、ウイリアム・オスラーの言葉です。「医学は科学に基づくアートである」と訳されることの多いこの名言を知らない医師はいないでしょう。


文章として美しく、カッコいいので、僕もどこかで聞いてなんとなく覚えていますが、オスラー先生はどういう文脈でアートという言葉を使ったのだろう?とたまに考えます。


artという英単語は、日本人の中学生英語的に直訳すれば「芸術」ですが、文脈によっていろいろな意味で使われます。


もう一つの代表的なのが「技術、技(わざ)」といった意味。熟練の技を持つ職人を意味するartisanという単語がありますが、語源的にはこの意味合いのartから来ているのは明らかです。


腕のいい外科医の技はそれ自体がアートと言っていいでしょう。さらに、その術野は見惚れるほど美しく、作品としてもアートだという考え方もありえるかもしれません。


しかし、僕が(医学をきちんと学んだこともなく、医師でもなく、ただ普通の人よりは医師の業務内容やマインドをよく知っている一般人としての僕が個人的に)「医学はアートである」という言葉からいつも想起するのは、そういうドラマチックなシーンではありません。医師のもっとも基本的なテクニックであるフィジカルイグザミネーション、身体診察です。


医師が自分の身体の機能を駆使し、患者の身体の中で起こっている器質的な異変を感じ取り、自分の頭の中にある医学知識に照らし、その異変を病気として同定する。そこには技があり、科学に基づく知識の活用があり、創造性があります。作品には残りませんが、まさに「科学に基づくアート」です。


一方、昨今、身体診察が相対的に軽視されているのは否めません。初診の患者さんに聴診器を当てない先生も珍しくないとか。言うまでもなく、検査機器の進歩に反比例する現象です。画像を撮れば一目瞭然、血液検査のデータがあればすぐ診断できるのだから…という合理的な考えは理解できます。


理解できますが、やっぱりすべての医師が、もっとも手軽で有効なフィジカルイグザミネーションという技を身につけて、日常診療で生かしてほしい。そう思います。


学研メディカルサポートが制作した「目で学ぶフィジカルアセスメント大全」は、全18話で日常診療で使う身体診察のテクニックをほぼ網羅しています。新しい薬が次々と誕生する治療と違い、身体診察は古びません。キャッチコピーでうたっているように「一生モノの型」が身につきます。こうした番組を通じて、形に残らない医師ならではの「アート」が未来に伝承されていくことを望んでいます。

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