臨床医が産業医として働くのは意外に難しい。その理由

2023/03/26

目の前にいる患者を診断して、病気を治す。これが医師が行うもっとも一般的な業務であり、世の中の多くの人がイメージする「お医者さん」の仕事です。9割以上の医師がこのような臨床医に該当すると思います。


しかし、医師免許を持っていても、臨床に従事しない人もいます。大学や研究機関で研究に専念していたり、製薬企業で創薬に携わっていたり。行政官も数多くいますし、最近では、ヘルスケアビジネスを起業して実業界に進出する医師も目立つようになりました。


もちろんこれらの医師は全体から見るとごく少数ですが、臨床以外の医師の仕事でもっともコモンなものは何だろうと考えてみると、それは産業医ではないでしょうか。


産業医は50人以上の事業所に設置が義務付けられているので、必要数は膨大です。自ずと臨床と兼任している医師が多数派になります。しかし患者を診る臨床医と、企業と契約しその従業員の健康管理をする産業医では、求められる知識とスキルが異なります。


2016年にリリースした『今どき産業医のマストKNOW』では、プロ産業医の大室正志先生が臨床の先生方に向けて、実際に産業医に求められる役割を解説しています。


産業医の資格は医師にとても人気があり、日本医師会と産業医大が実施している認定研修会には毎回応募が殺到するというのは、医師の間では常識です。そのような定番の研修がしっかりある状況で、CareNeTVで番組をつくる必要がそもそもあるのかと当時思いましたが、大室先生にお話を聞くと、研修を受けて資格取得しても、臨床医が産業医として「いい仕事」をするのは決して簡単ではないとのこと。


その最大の理由が「臨床医にとってのクライアントは患者なのに対して、産業医にとってのクライアントは企業である」というベースの違いにあるのだそうです。臨床医の先生方は当然患者のために働くわけですが、誤解を恐れずに言えば、産業医は個々の従業員よりもむしろ企業のために働かなくてはならない。ずっと患者を治すことだけを考えてきた医師には、そのマインドチェンジが意外とできない。


当然と言えば当然ですが、改めてそう言われて、ちょっとハッとしたのを覚えています。


『今どき産業医のマストKNOW』では、そのような視座から、産業医として必ず知っておかなくてはいけないこと、さらに、できなくてはいけない基本的なことをカバーしました。


CareNeTVは「実臨床に役立つ」を旗印にしていますが、こんな臨床とは違った見方を提示するプログラムも用意しています。

人気シリーズ