数多あるCareNeTV番組の中で、長く支持を集め続ける作品には、それなりの理由がある。ヒット作の見所を、講師の先生の素顔、収録秘話を含め、ケアネット編集長の風間がご案内します。
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骨粗鬆症、見つけて骨折を防ぐのは内科医の役目 2024CareNeTV MVV 2024/12/06
年の瀬が近づいてきました。この連載では、主に過去の番組を収録当時のエピソードや制作秘話などを交えて作り手の視点でご紹介していますが、今回は初の試みとして、今年1年で一番僕の印象に残った番組を取り上げます。 編集長が選ぶCareNeTVの2024年のMVPならぬMVV(Most Valuable Video)です。 その作品は、東京都健康長寿医療センターの千葉優子先生による「知らないと困る!骨粗鬆症」です。 視聴数がもっと多い、華があって目立つ番組はほかにもいくつかあるのですが、僕がこの番組を選んだ理由は、誰でも知っている骨粗鬆症という平凡な疾患を取り上げた「地味な番組」にもかかわらず、視聴者から高い評価を得られている点です。 その最大の理由は、この記事のタイトルに書いたキャッチコピーにあると僕は考えています。 骨粗鬆症とはどういう疾患でしょうか? 痛みがあるわけでなく、放置してもそれ自体で患者が苦しむことはありません。しかし、骨が脆くなると転倒時の骨折リスクが格段に高まり、高齢者がひとたび骨折するとそのまま寝たきりになることが多々あります。 とくに症状があるわけではないので、患者の訴えから見つかることはまずありません。一方で、高齢になれば、一般的に骨密度が低下することは一般人でも知っています。つまり、検査さえすれば、骨粗鬆症はかなりの確率で発見できるのです。 この考えてみれば当たり前の事実、つまり骨粗鬆症を見つけて対応すれば高齢者が寝たきりになるリスクを低減でき、それを見つけ出すのは(骨折になってから治療をする整形外科医よりむしろ)普段から患者を診ているかかりつけの内科の役目なのだ、というメッセージをしっかり伝えられていることが、この番組の最大の価値だと僕は思っています。 内科医がそのような意識を持って骨粗鬆症を見つけようとするならば、骨粗鬆症の病態や診断方法・基準、治療法などを一通り知っている必要があります。先生にはあくまでその観点から必要十分な情報を整理してもらって います。 どのようなコンテンツでも、一番大事なのは取り上げるテーマそのものですが、その次は「切り口」です。どのよう角度からそのテーマを料理するか?そこで作品としての優劣がほぼ決まります。その「切り口」は、誰もが聞いた瞬間に感心するような鮮やかなものがもちろん理想ですが、時に言われなければ気づかないようなちょっとした差異でも大きな効果を生むことかあります。そこがコンテンツづくりの面白いところです。 ところで、CareNeTVでは好きな番組を単品で購入できるPPV(Pay Per View)を大幅値引きで提供する年末キャンペーンを開催中です。「知らないと困る!骨粗鬆症」を含め、僕が今年この連載で紹介してきた作品と「ケアネットまつり」のプログラムなど普段PPVで販売していないコンテンツもご覧いただけるので、チェックしてみてください。 ★クリスマスプレゼント企画★ 臨床医学チャンネルCareNeTV 編集長のオススメ番組《MAX70%OFF》 2024年12月25日(木)まで 年末年始に臨床医学を楽しく学びませんか? 今年、風間編集長の「この番組のここがスゴい!」で取り上げた関連番組の「90日間視聴権」をスペシャルプライスでお届けします。 対象番組は、本ページ下のバナーをご確認ください。 ★CareNeTVプレミアム会員の皆さまへ★本キャンペーンでディスカウント対象になっているシリーズや関連のDVDを抽選で10名様にプレゼント! この期間中にCareNeTVプレミアムに入会された方も対象です。 CareNeTVプレミアムは5,500円/月(税込、入会月無料)でお申し込みいただけます。お得な半年払い、年払いプランもご用意しています。ぜひご検討ください。 >> 詳細・ご応募はこちら \★SALE対象番組はこちら★ 12月25日までMAX70%OFF!/ -
循環器から皮膚科まで「5分で専門医が言い切る」価値に気づいてほしい 2024/11/24
動画コンテンツを制作する際に、どのようなタイトルをつけるかはとても重要です。とくにネットにあふれる「手軽な動画」の場合、タイトルやバナーなどのビジュアルを目にした一瞬で興味を持たれなければ、観られることはありません。本体の動画コンテンツがどんなに良いものであったとしても、タイトルで惹きつけてクリックさせなければ、評価の対象にすらならずネット空間に埋もれていきます。もちろん例外はありますが、言わんとすることは理解いただけるでしょう。だから僕らはタイトルづけには腐心します。考えて考えて考え抜きます。それが出演いただいている講師への最大の敬意であるし、潜在的な視聴者に対する(その動画の価値を伝えるという)大切な情報提供だからです。「プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ」このタイトルはどうでしょうか?まあ悪くないと思います。しかし、初めて見たすべての人が見た瞬間にその内容を想起できるでしょうか?「Qって何?」と思う人もいるかもしれませんね。他人事のように書いているのは、このタイトルは僕がつけたわけではないからです。プライマリケア医の立場から前野哲博先生が各科のスペシャリストに疑問をぶつけて答えてもらう形式の番組で、循環器編、神経内科編というように、僕がケアネットに入社する前から長期にわたって続いているシリーズです。「あなたの悩みを5分で解決!一問一答Q&A番組」「はっきり!スッキリ!あなたのすべきことがわかる一問一答Q&A番組」「5分で専門医が言い切る!プライマリ・ケアのベストチョイス」これらは「スペシャリストにQ」のキャッチコピーの変遷です。キャッチコピーとは、商品や作品の魅力を伝えるために人の注意を引く宣伝文句のこと。タイトルを補完するものとしてネット空間ではタイトルと同じくらい重要になります。3つの中でどのコピーが一番いいかは一概には言えませんが、僕はもっとも新しい「5分で専門医が言い切る!」が気に入っています。実は、この「言い切る」という言い回しは、前野先生が収録現場でよく相手のスペシャリストの先生に言っている言葉でもあります。「専門家の間では議論があるところでも、あいまいにせずに、ズバっと言い切ってほしいんです。そうしないと僕ら(プライマリケア医)はどっちがいいのか、どうしたらいいのかわからないので」ガイドラインに書いてある内容をそのまま話すのではなく、臨床現場でその先生は実際どうしているのか?プライマリケア医にはどこまでやってほしいのか?そこをクリアにする。そのポイントを端的に話す。それこそが、この番組の最大の特徴であり、「5分で専門医が言い切る!」はその特徴をかなり表現できているコピーだと自負しています。先生方は、そんなややこしいことを考えず直感的にCareNeTVの番組を選んでご覧いただいていると思いますし、それでよいのですが、たまにはそんな視点でタイトルやキャッチコピーを見返してみると、そのコンテンツから学べる「最大の価値」(と作り手が考えているもの)が何なのか気づくかもしれません。 -
皮疹の魔力、クイズの惹力 2024/10/25
このコラムの愛読者なら、僕に会ったことがなくても、僕がどんな人でどんなキャリアを歩んできた大方わかっていると思います。が、今この文章をたまたま読んでいる大半の方は、そんな人であるわけもないので、簡単に申し上げると、大学を出て社会人になってからずっと(実に30年以上)医療関係者に向けたメディアでコンテンツを作って発信してきました。で、タイトルにあるクイズの話です。メディアには、雑誌であれテレビであれ、テキストであれ動画であれ、読者・視聴者に伝えたい「何か」がまずあります。それをより多くの人に届けるために(まあ、とりあえず見てもらうために)、いろいろ工夫をするわけですが、クイズはその代表的な方法といえます。アイデアとしては、もっともありきたりでもっとも凡庸なんですが、確実に効果がある。人間というのは、目の前にクイズを提示されると、解こうとしてしまう本能があるようです。クイズにはなぜか人を惹きつける力がある。都内で電車に乗っていると、車内ディスプレーでいつもどうでもいいクイズが流れているのも頷けます。僕らメディア側からすると、クイズはいわゆる“鉄板”の手法ということになります。で、皮疹です。医学的には所見の1つということになるでしょうが、血液検査や心電図、X線など他の多くの所見と異なる特徴があります。それは、検査しなくても見ることができることです。医師にも患者本人にも好むと好まざるとにかかわらず見えてしまう。医師は、診察室でオーダーもしていないのに、まず提示されてしまうわけです。クイズのように。熟練の皮膚科医は、その皮疹を見ただけで、聞いたこともないような疾患をあらかた診断できてしまいます。もちろん他の検査で確認するわけですが、その視診力ともいうべき技術に非皮膚科医は驚かされると聞きます。「Dr.安部の皮膚科クイズ 中級編」は、そのような謎めいた所見である皮疹を鉄板の手法であるクイズで仕立てた番組です。ウケないわけがありません。制作は大変でしたが、高い評価をいただき、ロングセラーになっています。初級編を前に一度ここで取り上げたので、今回はちょっと違った角度から紹介させていただきました。なお、タイトルにある「惹力」というのは僕の造語です。辞書で引いてもありませんので、ご注意を。でも、意味はわかりますよね? -
意表をついて大好評!“医師のマナー”を「まつり」で学べ 2024/09/15
ケアネットでは、今月21日、22日の2日間にわたって「ケアネットまつり」を開催します。CareNeTVでお馴染みのスター講師陣が、立て続けに趣向を凝らしたオリジナルレクチャーを繰り出すオンラインイベント。2年連続2回目。僕としては、フジロックのように観客を熱狂させ、24時間テレビのように人々の心を動かし、紅白歌合戦のように全国民が注目する医療界のビッグイベントに育てたいと思っています。今年は、医師向けだけでなく、医学生、看護師のためのプログラムも複数用意しましたが、中でも異色なものとして、メイヨークリニックの松尾貴公先生による「若手医師のためのマナーと仕事術」があります。松尾先生は、正直CareNeTVでお馴染み!では決してなく、今年度からスタートした「臨床研修サポートプログラム」の、しかも最後の最後に登場した先生です。「研修医のための医師の仕事術」「研修医のための医師のマナー」の2シリーズを公開中。「臨床研修サポートプログラム」は、医師になってからの最初の2年間、臨床研修をより実りあるものにすることを支援する目的で立ち上げた新企画です。臨床研修のローテーションで回る必修診療科で必ず学ぶ臨床トピックから始め、続いて、診療科にかかわらず研修医が押さえておくべき臨床テーマを「全科共通」番組としてリリースしてきました。実は、松尾先生と知り合い、意見交換する機会を得たのはまったくの偶然で、それらの企画があらかた決まった後でした。長年研修医教育に携わってきた松尾先生が強調していたのは、「全科共通」よりさらに手前、いわば「社会人共通」のようことだと僕は受け止めました。それを医師という職業に限定してまとめてみたらどうかと。でも「今の若い人って、ビジネスマナーとか興味あるのかなー」最初そう思いましたが、よくよく考えて、真逆の結論に達しました。僕らのような古い世代の人間は、そうしたものをきちんと学んでいたのだろうか?否。むしろ、それらはマニュアル的に明文化され、体系的に教育されるものではなく、上司や先輩方の背中を見て「暗黙のうちに」身につけていくものではなかったか?一方、Z世代の人々は、そんな「阿吽の呼吸」みたいな話、意味わかんないしー、知っておかなきゃならないことがあるなら、短時間でわかりやすく簡潔に教えてよ!と考えるのではなかろうか?実際リリース後、期待通りの好意的な意見をあちこちからいただいているので、異色ではありますが、今回「ケアネットまつり」でそのエッセンスを濃縮した特別版を全医療者に向けて広く公開することとしました。9月21日午後14時35分から。若い先生方のみならず、中堅、ベテランの先生方にも耳が痛い話が多いはず。目から鱗が落ちること請け合いです。 -
名講義は時を越える!新人研修医が絶賛する18年前の「身体診察」の傑作 2024/08/25
いきなり言ってしまいます。今回取り上げるCareNeTV番組はコレ。古谷伸之先生の「目からウロコ!Dr.古谷の実践!ザ・診察教室」。2006年8月にケアネットDVDとして発売された“ふた昔前”の作品です。2ヵ月前のこのコラムでも、20年前の浅岡俊之先生の漢方番組のすばらしさをお伝えしましたが、昔の名講義で「今」勉強できるのは、膨大な動画コンテンツに瞬時にアクセスできるデジタル時代ならではですよね。しかし、今回この古谷先生の番組を掘り起こしたのは、実は僕でありません。今年、総合病院 南生協病院の研修医になったばかりの杉田研介先生です。背景を少し説明させていただきます。現在ケアネットでは、全国の医学部、医科大学を通じて医学生が無料でCareNeTVを見ることができる「視聴パス」を提供しています。詳細はこちらをご覧いただければと思いますが、医学生が多数ある医師向けの番組の中から自分に合ったものを探すこと自体が容易ではありません。そこで杉田先生に「ケアネットのアンバサダー」として、個々の番組の医学生に役立つポイントや実際の活用法などを発信してもらっているのです。杉田先生とケアネットにつながりができたのは、昨年の「ケアネットまつり」(今年も9月21日、22日の2日間開催します!)。まだ医学部6年生だった昨年、「ケアネットまつり」で「視聴パス」のことを知った杉田さんは、臨床実習や卒業試験対策にCareNeTVを活用し始めたそうです。CareNeTVの有効な使い方を自分でいろいろ試してくれた彼こそその任にピッタリと、研修医になってからアンバサダーをお願いした次第です。その杉田先生が、アンバサダーとして最初に紹介した番組が「目からウロコ!Dr.古谷の実践!ザ・診察教室」。なぜこの番組を推してくれたのかは本人のSNS投稿を読んでもらうのが一番ですが、「初期研修医の先生方はもちろん、医学生の方々にもOSCE対策や実習対策として大いに役立つ内容」と太鼓判。Zoomでの定期ミーティングで「身体診察で知りたいことは、ほとんどこの番組の中にありました。内科のローテーションの間いつも見てましたよ」と熱っぽく語ってくれたのもうれしかったですね。「でも、古いよねー」と僕が尋ねると、「身体診察は基本的に変わりませんから、古さは関係ないです!」杉田先生の力も借りながら、これからも「時を越える名講義」を掘り起こして紹介していければと思います。ちなみに、アンバサダーも若干名密かに募集中ですので、われこそはという方はご連絡ください(研修医限定)。 -
NASHの新薬とガイドラインと専門医試験 2024/07/21
CareNeTVで臨床医学チャンネルを標榜し、臨床で働く先生方の「明日の仕事」がより高質に、より効率的になるようなコンテンツのあり様を入念に検討し、丁寧に制作しています。それが基本ではありますが、一方で、ここ数年先生方の「現実的なニーズ」がとても高いのが、専門医試験対策番組です。専門医の資格は、先生方のキャリアにおいて非常に重要であり、その試験を一発で確実に合格したいと考えるのは当然のこと。CareNeTVで微力ながらそのお手伝いをできればと、どのような形でサービス設計するのがよいか熟考し、実行に移しています。今年度は初の試みとして、「消化器病専門医試験パーフェクト対策」を企画しました。講師は公立豊岡病院の宮垣亜紀先生。こちらは動画コンテンツではなく、Zoomを使った双方向の少人数オンラインスクールで、7月26日に開講します。受験する先生がいたら、ぜひご紹介ください。ところで、今年に入って非アルコール性脂肪性肝炎、いわゆるNASHの新薬が初めて米国で承認されたのをご存じでしょうか?今年3月19日のCareNet.com「バイオの火曜日」の記事によると、その薬は米国Madrigal Pharmaceuticals社が開発したresmetirom(商品名:Rezdiffra)です。1日1回の経口服用薬で、NASH患者の肝臓で不調となる甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)のアゴニスト。肝臓の線維化のステージがF2~F3の患者が適応となります。NASHは日本でも患者数が増えている疾患ですが、その治療薬は何か?と問われたら、「存在しない」というのがこれまでの答えでした。それが今は日本では承認されていないが、resmetiromという薬剤となります。ただし、NASHの新薬開発競争は肝臓の領域でホットな話題ではありますが、日本の専門医試験でresmetiromが問われることは今のところないはずです。もちろんNASHの治療について問われる可能性はあります。その際の正答の根拠となるのは、日本の標準治療つまり診療ガイドラインの記述ということになります。特効薬がないなかでNASHが実際に日本でどのように治療されているのか、どんな問題があるのかについてもケアネットで情報提供しています。2021年7月にライブ配信した「ガイドラインから学ぶNAFLD/NASHの診療ポイント」がそれです。ケアネットライブとして不定期で配信している「ガイドラインから学ぶ」シリーズは、さまざまな疾患の最新知見、日本におけるその時々の標準治療のキャッチアップに大変好評をいただいています。NASHの回のライブ講師は同じく宮垣先生。ガイドラインの最終改訂は2020年なので、内科専門医試験にも消化器病専門医試験にも対応できる内容です。もちろん本試験でNASHについて出題されるかはわかりませんが。医学は日進月歩で進歩し情報は絶えずアップデートされていきます。その意味で絶対的な不動の正解があるわけでなく、その目的によって情報の伝え方、届け方も変える必要があると思います。情報が溢れるなかでそれを最適化するのが、つまりところ私たちケアネットの役割なのではないかと感じる昨今です。 -
漢方の浅岡先生の20年前の名講義を聴けるのはCareNeTVだけ! 2024/06/23
NHKの「時をかけるテレビ」という番組をご存じでしょうか? 放送開始から100年近くになるNHKが過去に制作・放送してきた番組から「今こそ見たい」作品を解説付きでオンエアするものです。映像は古く、時代背景も現代とは異なるのですが、純粋に今見ても面白い、いや今だからこそ面白いものが選りすぐられており、毎回楽しんでいます。プロデューサー目線でいうと、NHKの膨大なコンテンツのアーカイブがうらやましい限りです。かくいうCareNeTVも、医学教育動画という分野に限っていえば、日本有数の歴史があり、豊富なアーカイブを持っています。ケアネットの創業は1996年。当時はインターネットがまだ立ち上がったばかりで、医学教育番組を(なんと!)CS放送で配信する事業からスタートしました。今のCareNeTVに近い形態になったのは、2004年の「ケアネットDVD」から。当時はまだ動画をネットで見る環境ではありませんでした。逆に現在はDVDで動画を見る人は激減し、ネットでスマホでが当たり前になったのは周知のとおり。しかし、このようにメディア、デバイスが変遷していくなかでも、ケアネットの動画コンテンツ資産は連綿と蓄積されてきたのです。医学は進歩を続けているので古い番組はお薦めできないものが多いのですが、そんな中で今なお多くの方に視聴いただいているのが浅岡俊之先生の漢方番組です。最初の作品「明解!Dr.浅岡の楽しく漢方」(第1巻)のDVDが発売されたのは2004年7月。実に20年前ですが、漢方医学という性質上今見ても十分に実用的です。漢方関連のコンテンツに対するニーズは常にあるので、その後もいくつか番組をリリースしていますが、浅岡先生の講義は特別らしく、その評価は揺るがないと感じます。「15年ほど前に視聴していました。また繰り返し学習したいと思い、再視聴。わかりやすくて、役立つ内容で素晴らしいです」。2020年にこんなコメントが書き込まれています。そんな背景もあって、先日、久しぶりに浅岡先生に連絡し、新しい企画を打診したところ、教育・講演活動からはもう身を引いたとのこと。大変残念ですが、今では生で聴くことができない先生の名講義をいつでもどこでも視聴できるのがCareNeTVプレミアム会員の特権になりました。ところで、「明解!Dr.浅岡の楽しく漢方」はDVDで6枚、総講義時間は24時間を超えます。ほぼ大学の講義1コマ1年分。今のCareNeTVでは考えられない「超大作」です。このシリーズでしっかり学べば、日常診療に必要な漢方のかなりの部分まで習得できるのではないかと思います。 -
病理学を楽しく!医学生のころ苦痛だった講義をCareNeTVが作るとこうなる 2024/05/19
なんで大学生のころは、授業をさぼることばかり考えていたんだろう?「難しい入学試験をパスし高い授業料を払って、本当にもったいないことをしたなー」と社会人になってからよく後悔したものです。その分野の一流の先生の講義を生で聴けて、質問もできる。そんな貴重な機会をみすみす棒に振っていたのですから。「若かった」と言えばそれまでですが、それにしても…今この文章を読んでいただいているだろう多くの方と違い、僕は文系学生だったので、状況はかなり異なるとは思いますが、医学部での講義が「とても貴重だった」「もっとしっかり聴講しておけばよかった」と後年感じたことがある先生方も多いのではないでしょうか。CareNeTVは「臨床医学チャンネル」と標榜しているように、臨床医学の教育的な番組が大半を占めます。しかし、医学部でその手前に学ぶ「基礎医学」を扱ったコンテンツもあっていいのではないか?解剖学、生理学、病理学、薬理学等々…。番組企画会議で部員からそんな提案を聞いたとき(自分がそう感じているから)、そんなニーズも確かにあるかもしれないと思いました。臨床医として働き始めると、医学部で行われているような基礎医学の講義を聴く機会はそうそうないでしょうから。そんな発想から生まれた番組が「お絵かきDEおさらい病理学」です。CareNeTVの番組としては異色ですが、誕生にはそうした背景があったのです。実際に作品になるまでは紆余曲折があり、大学の講義のような感じではないかもしれませんが、「学生時代、病理や免疫学が苦手でしたが、改めて教科書を読んでみたくなりました」「とてもわかり易かったです。学生時代に聞きたかった」「復習できてよい」といった好意的な声を多数いただき、当初想定したニーズはやはり一定数あるということが確認できました。ところで、この番組にはもう1つ特徴があります。講師の小倉加奈子先生がイラストを描きながら病理の説明をしていくところです。基礎医学は、ともすれば小難しく退屈になりがちなので、先生の特技を生かしてCareNeTVらしい演出で仕上げています。実際に絵を描いているところを撮影されるというのは想像以上にハードルが高いことなのですが、小倉先生はプロのイラストレーターのように見事に対応してくれました。その姿を見て往年の水森亜土さんを思い出しました(わからない方のほうが多いですね。すいません)。他の分野でもこんな楽しい基礎医学の講義ができる先生がいるといいのですが…。われこそはという先生がおられましたら、ぜひご一報ください。 -
新しいエコーの使い方 肩こり、腰痛を治すハイドロリリースに触れてみる 2024/04/21
CareNeTVでは、2500を超える臨床医学動画が見放題のCareNeTVプレミアムに加え、Zoomを活用し、講師の先生とオンラインで直接コミュニケーションしながら密度の濃い学びが得られるCareNeTVスクールも数多く企画しています。さまざまなスクールの中でいまや定番となっているのが、エコーの手技を学ぶスクールです。POCUS(Point of Care Ultra Sound)や心エコーなど、エコーのスクールも数種類ありますが、どれもスタジオに超音波診断装置を持ち込み、モデル患者に先生がプローブを当てて、そのエコー画像を遠隔の受講者にリアルタイムで映し出しながら生解説するのが大きな特徴です。一昔前と比べると、超音波診断装置の性能、UIは著しく向上し、臨床での用途は大きく広がっています。それにつれて、先生方がエコーを取り入れて診療をレベルアップさせたいという熱量が高まっていることを、エコースクールの人気を見るにつけ感じます。と、いきなりCareNeTVのエコースクールの話を延々としてしまいましたが、今回紹介したいのは「Dr.白石のLet‘sエコー 運動器編」というCareNeTV番組についてです。エコーで運動器を診るという発想は比較的新しく、実践している先生はまだ少数派だと思います。しかし、白石吉彦先生が第1回「外来超音波診療の実際」で紹介する外来診療でのエコーの使い方を見ると、肩こり、腰痛、肋骨骨折、膝関節穿刺、ばね指、痛風、粉瘤と実に多様。とくに運動器エコーが威力を発揮するのは、筋膜性疼痛症候群(MPS)です。MPSは、繰り返す動きや激しい運動、加齢などにより筋が炎症や血行不良を来した結果、筋肉を包む筋膜の癒着が起こり、骨や関節に異常はないのに痛みが生じる病態で、肩こりや腰痛の原因の多くがMPSだと考えられています。この癒着した筋膜などをエコーを用いて確認し、生理食塩水などを注入し筋膜を剥がすことで痛みを緩和するのがハイドロリリースという治療法。「Dr.白石のLet‘sエコー 運動器編」では、肩こり、腰臀部痛、五十肩のハイドロリリースの手技を見せ、エコー画像を提示ながら、詳細に指導しています。MPSとハイドロリリースをご存知ない方もいると思いますが、肩こり、腰痛という多くの患者が抱える悩みを解消できる可能性があり、注目されています。この番組は、ハイドロリリースの研究・普及を推進している一般社団法人 日本整形内科学研究会が監修しています。”整形内科”という言葉通り、整形外科だけでなく内科系のクリニックでも取り入れるところが出てきています。まずは動画で標準的な診断、治療法を知るだけでも価値があるのではないでしょうか。実は、これを実際に診療に取り入れてもらうためのCareNeTVスクールも検討しております。ご興味ありますか? -
コロナ禍を乗り越えた!古さが新しいCareNeTVの看板番組で「しびれ」を学ぶ 2024/03/23
「みなさん、お待たせしましたー!3年ぶりですよねー」冒頭こんなあいさつで始まるCareNeTVの番組があるんですが、何だかわかりますか?CareNeTVについて多少知っている方なら答えは1つしかありませんよね。そう、林寛之先生による「Dr.林の笑劇的救急問答」です。2005年から続く「Dr.林の笑劇的救急問答」は、CareNeTVの代名詞ともいえるシリーズ番組ですが、実は、15年目の2020年9月リリースのSeason16で止まっていました。その原因は言うまでもなくコロナ。この番組は、CareNeTVでは珍しく、撮影クルーが丸ごと東京から福井に赴き、福井大学医学部附属病院の一角をお借りし林先生と門下の先生方と撮影・収録しています。新型コロナパンデミックの間は当然、そんなことはできません。コロナ禍が長引く中、オンラインでの代替案などを幾度となく検討しましたが、納得できる方法が見つからぬまま、3年が経過したというわけです。今月、最新作Season17の全8回が配信スタートとなりました(ので、今CareNeTVに入会すれば一気見できます!)。コロナ前とまったく同じスタイル、テンションで、Dr.林ワールドをお楽しみいただけます。3年前のこのコラムでも書きましたが、「Dr.林の笑劇的救急問答」がすごいのは、番組のスタイルが20年前からまったく変わっていないことです。現役の若手医師、医療者による救急現場を模したベタな寸劇。後半は、その先生方に林先生がユーモアたっぷりの授業をします。笑いの取り方も不変で、どこか”昭和的”。しかし、それが今でもウケ続けているのです。林先生が本当にスゴいのは実はそこ。ウケ続けていることです。CareNeTVでは、視聴数とは別に部内でユーザー満足度を定期的に調査していますが、「Dr.林の笑劇的救急問答」の新作が出るたび、常に他の作品を圧倒的に凌駕する高い評価となります。昨年9月に開催した「ケアネットまつり」でも林先生が人気投票第1位を獲得。今、Z世代に80年代90年代の歌謡曲が人気だそうです。テレビドラマではバブル時代と現代のギャップを描いた「不適切にもほどがある!」が大ヒット中。案外、若い人々は古さに新しさを感じ、しびれるのかもしれません。ここで問題。「Dr.林の笑劇的救急問答 Season17」第1回「しびれ診断のかなめ」から。「半身のしびれ」を訴える患者に何を考えるか?選択肢は3つ。① 頭蓋内病変を示唆② 寝返りしないで側臥位で寝ていた③ 1985年優勝、日本一!正解と先生方のリアクションが気になる方は本編でご確認ください。 -
Dr.香坂はジョブズだ!心電図講義でさえプレゼンテーションで魅了する 2024/02/24
CareNeTVで取り上げている多様な臨床のテーマでとくに人気の高いものに心電図があります。数人の講師がさまざまな形で心電図の読み方をわかりすやく講義してくれています。それぞれに個性、特徴があり、自分の好みやレベルに合わせて選んで勉強していただければと思いますが、今日は、心電図番組としては全期間ランキングでトップの「Dr.香坂のすぐ行動できる心電図 ECG for the Action!」のすごさを語らせてください。香坂先生は、優れた循環器臨床医であり、研究者であり、大学教員としては多くの後進を育てています。そのことは論を待ちません。しかし、僕が香坂先生が本当にすごいと思うのは、それら医師としての強固な土台のうえに圧倒的な「話力」が載っていることです。世の中には、いわゆる「話が上手い」人は少なからずいます。医師の中にも当然いますし、そうした先生はCareNeTVの講師陣に何人も見つけられるでしょう。あえて言うと、そうした「話が上手い」人たちの中でも香坂先生は傑出している、と僕は思います。例えば、故スティーブ・ジョブズ。伝説となった2005年のスタンフォード大学で行った卒業祝賀スピーチを、彼以外にできるでしょうか。言葉の選び方、声音、表情それらすべてを持って聴く者の心をつかみ、揺さぶり、強いメッセージを伝える。比肩するスピーカーはそうはいません。香坂先生のレクチャーを聴いていると、講義が上手い大学の先生の授業というより、ジョブズのスピーチを聞いているような気分になるのです。「Dr.香坂のすぐ行動できる心電図 ECG for the Action!」の最終回で「カッコいい心電図の読み方」について彼は語ります。4枚の心電図を提示。心電図の波形の特徴から心臓の状態を仔細に解釈し、次々と一発診断してみせます。どうだ!これこそが「カッコいい心電図の読み方」だ…という話ではないのです。最後に推理小説なようなどんでん返しがあり、真に「カッコいい心電図の読み方」がどのようなものか視聴者の胸に刻んで講義が終わります。11分のレクチャーに情報が詰まっているだけでなく、キャッチーな導入があり、巧みなストーリー展開があり、意表をつくどんでん返しがあり、“腹落ち”するエンディングがある。見事です。確かな医学的知見にストーリーテラー、プレゼンターとしての才を兼ね備えたDr.香坂の「珠玉の講義」をぜひご堪能してください。 -
内科開業医も整形外科を診られなきゃならない時代の入門番組「在宅整形」 2024/01/27
内科開業医も整形外科を診られなきゃならない時代…と書かれてる時点で「ああー、そういう話ね」と思われた方も多いでしょう。そう、そういう話です。でも念のため書かせてください。この10年(あるいはもう30年くらいでしょうか?)在宅医療の推進が言われています。在宅医療の推進が叫ばれて久しい、ってやつです。これには2つの側面があります。1つは、最期を自宅で過ごしたい、という多くの高齢者が抱く願いを叶えよう、叶えられる体制を国として整えようという側面。これが大義名分です。もう1つは医療費抑制という側面です。要介護者を病院や施設でケアするのはとてもお金がかかります。高齢者に対する医療・ケアのコストを在宅に転嫁することで公的医療費の総額を抑えようという政策です。近年、在宅医療の方がむしろお金がかかるという議論もありますが、少なくとも在宅医療推進の論拠にこれがあるのは間違いありません。で実際、在宅医療は確実に進んできました。すると現場で何が起こるのか?施設ケアは患者にとって不自由ですが、その分、安全です。施設は基本的にバリアフリーですし、医療介護スタッフが常に助けてくれます。極端な話、施設内で過ごしている限り、交通事故のリスクはゼロです。一方、在宅では普通の生活リスクが伴います。何より日々移動しなくてはいけません。移動の機会が多ければ転ぶ可能性が高まり、高齢者が転ぶと骨を折る危険性が極めて高く、すると…。つまり、そういうことです。「Dr.飯島の在宅整形」はこうした時代背景から生まれました。地域の内科系開業医にとって在宅はいまや必須科目。飯島先生は整形外科専門医ですが、ご自身の在宅医療の経験から内科医にも求められる整形外科の知識とスキルをあくまで実践的にまとめています。この番組が時代のニーズに合っていることは視聴者からのレビューの多さと評価の高さに現れています。「実際に在宅をやっているため、まさにそのことで悩んでいます!というピンポイントのレクチャーを聞けてよかった」「腰椎圧迫骨折で偽関節となり寝たきりになるのを知らなくて勉強になった」「整形外科の視点での在宅診療は新鮮だった」などなど。当初ニッチだと思われていたものが世の中の変化で主流になることが時にあります。「在宅整形」にそんな時代の潮目を感じずにはいられません。 -
仲のいい医師がカジュアルに普段の治療について語り合う 「ディジーズ・バー」で國松先生が「病気」を注文する真の理由 2023/12/28
「ああ、なるほど。要するに、医局での医師同士の雑談で普段話してるような内容ですね。できると思いますよ。面白いかもしれないですね」目黒の居酒屋で、当時僕が考えていた番組のアイデアを話すと、國松先生はわが意を得たりとばかりにほくそ笑みました。「ディジーズ・バー」の企画が立ち上がった瞬間です。CareNeTVの番組企画で難易度が高いのは、実は「治療」の話です。「えっ、いろいろな疾患の治療を解説してる番組いっぱいあるよね?」とあなたは思ったかもしれません。確かにたくさんあります。しかし、それらはエビデンスに基づいた診療ガイドラインに沿った定型的な治療内容であるものがほとんどです。それを逸脱した、つまりその先生の経験に基づく治療については誰もなかなか話してくれません。収録の合間などに水を向けると「そんな根拠のない無責任な講義はできない」と言われてしまいます。その結果、番組での治療の説明は、ほとんどガイドラインに書いてる通りで、オリジナリティがある講義にはなりにくいのです。誤解してほしくないのですが、診療ガイドラインの内容やその背景にあるエビデンスを解説する講義は極めて重要だと僕ももちろん思っています。しかし、実際の患者は多彩であり、すべてガイドライン通りの治療で治すことができるわけもありません。そんな時、有能な医師はどのように対応しているのか?そのノウハウを番組で伝える方法はないか?僕はずーっと考えていたのです。國松先生にそんな相談をすると、冒頭の答えが返ってきたので、企画は即ゴーサイン。番組の形式も仲のいい医師同士の雑談風にしようとすぐ決まりました。きちんとした講義だとしっかりとしたエビデンスがないことは言いづらい。完全オフのときの雑談ならば、「僕はこんな時こうしてるんだけど、先生はどう?」とお互いが普段考えていること、やっていることをカジュアルに話せるし、まあ許されるのではないかと考えたわけです。そういう意味で「ディジーズ・バー」は、CareNeTVの中でも異色で実験的な番組ですが、視聴者の先生方にはおおむね好意的に受け入れられています。医師であれば一廉の先生の教科書通りとは限らない治療の選択に興味をそそられるのは当然ですよね。ちなみに、バーという設定と「ディジーズ・バー」のネーミングは僕が考えました。これに大ウケしていたのは、ほかならぬ國松先生自身。なぜなら(先生を知る人の間では有名な話ですが)、國松先生はお酒をまったく飲まないからです。だからこそ先生は行きつけのバーで夜な夜な「病気」を注文しているのでしょう。※続編の「ディジーズ・バー2」も現在好評配信中です。 -
「医学はアート」を体現するこのスキルを身につけ伝えてほしい 2023/11/25
The practice of medicine is an art, based on science.今日の医学教育の基礎を築いたとされるカナダ人医師、ウイリアム・オスラーの言葉です。「医学は科学に基づくアートである」と訳されることの多いこの名言を知らない医師はいないでしょう。文章として美しく、カッコいいので、僕もどこかで聞いてなんとなく覚えていますが、オスラー先生はどういう文脈でアートという言葉を使ったのだろう?とたまに考えます。artという英単語は、日本人の中学生英語的に直訳すれば「芸術」ですが、文脈によっていろいろな意味で使われます。もう一つの代表的なのが「技術、技(わざ)」といった意味。熟練の技を持つ職人を意味するartisanという単語がありますが、語源的にはこの意味合いのartから来ているのは明らかです。腕のいい外科医の技はそれ自体がアートと言っていいでしょう。さらに、その術野は見惚れるほど美しく、作品としてもアートだという考え方もありえるかもしれません。しかし、僕が(医学をきちんと学んだこともなく、医師でもなく、ただ普通の人よりは医師の業務内容やマインドをよく知っている一般人としての僕が個人的に)「医学はアートである」という言葉からいつも想起するのは、そういうドラマチックなシーンではありません。医師のもっとも基本的なテクニックであるフィジカルイグザミネーション、身体診察です。医師が自分の身体の機能を駆使し、患者の身体の中で起こっている器質的な異変を感じ取り、自分の頭の中にある医学知識に照らし、その異変を病気として同定する。そこには技があり、科学に基づく知識の活用があり、創造性があります。作品には残りませんが、まさに「科学に基づくアート」です。一方、昨今、身体診察が相対的に軽視されているのは否めません。初診の患者さんに聴診器を当てない先生も珍しくないとか。言うまでもなく、検査機器の進歩に反比例する現象です。画像を撮れば一目瞭然、血液検査のデータがあればすぐ診断できるのだから…という合理的な考えは理解できます。理解できますが、やっぱりすべての医師が、もっとも手軽で有効なフィジカルイグザミネーションという技を身につけて、日常診療で生かしてほしい。そう思います。学研メディカルサポートが制作した「目で学ぶフィジカルアセスメント大全」は、全18話で日常診療で使う身体診察のテクニックをほぼ網羅しています。新しい薬が次々と誕生する治療と違い、身体診察は古びません。キャッチコピーでうたっているように「一生モノの型」が身につきます。こうした番組を通じて、形に残らない医師ならではの「アート」が未来に伝承されていくことを望んでいます。 -
シン・聴診術、東大式 抗菌薬スペクトラム…今ライブGTが面白い! 2023/10/28
聖路加流低Na血症への対応、シン・聴診術、東大式 必修 抗菌薬のスペクトラム…ユニークな切り口で数々のヒット作を生み出している「ケアネットライブGT」が2シーズン目に突入しました。GTとは、got talent のアクロニム。テーマはズバリ才能発掘です。CareNeTVには、臨床医であれば誰でも知っているような著名な医師による質の高いレクチャーが溢れていますが、一方で、どんなスター講師も最初は無名だったという当たり前の事実もあります。GTの企画意図は、これから日本の医学教育界をリードしていくだろう若手、あるいは、豊かな才能があり伝える価値がある知識を持っていながら世間にまだあまり知られていない中堅の先生方を招聘し、世に出していきたい、スターにしていきたいというものです。ところで、医師の方々と雑談をしているときによく聞かれることの1つに「CareNeTVの講師の先生ってどうやって見つけてるの?」というのがあります。この問いに対する明確な答えは、正直ありません。一番理想的なのはすでに良い関係にある先生とのコミュニケーションの中で新たな企画、その企画に相応しい先生が浮かび上がってくることですが、いつもそう都合よくはいきません。だからCareNeTVの企画担当者たちは、常に学会の演題をチェックしたり、売れてそうな書籍を立ち読みしに本屋に行ったり、ネットで適当なワードを打ち込んで検索したり、当てもなくネットサーフィンしたりしているのです。GTは、視聴者に有益なコンテンツを提供しつつ、そんな難しい作業に1つのレールを敷いていく試みでもあるわけです。「パクるのは全然ありだよー」と僕はよくスタッフに言っています。ここでいう「パクる」とは物品を盗むことではなく、世間で上手くいっている商品やサービスのアイデアを拝借することです。正直カッコよくはありませんが、成功例を真似すれば2匹目、3匹目のドジョウ的に成功する確率は高いので、ある意味、コンテンツ作りの王道ともいえます。でもいつもパクってばかりいたら「あいつらオリジナリティがない奴らだ」と評価を下げていくからね、と注釈をつけますが。なお、ケアネットライブGTは、外国の某テレビ番組にインスパイアされ、オマージュを込めたネーミングであって、パクりではありませんので、念のため。 -
心電図を読むときは「紙コップ」を! 使えるDr.増井メソッド 2023/09/21
心電図って難しいですよね。僕は、医療者ではないので、心電図を読める必要はないのですが、CareNeTVの番組の映像チェックで心電図が出てくると、医師になったつもりでなんとか読もうと努力してしまいます。素人ながら何度も同じようなことをやっているので、典型的なST上昇などはわかるようになりました。しかし、当たり前ですが、実際に臨床で遭遇する心電図はそんな教科書に出てくるようなわかりやすい波形ではありません。「Dr.増井の心電図ハンティング」はいきなりそこからスタートするので、スタジオでそのレクチャーを見たとき、「むむむ」って見入ってしまったのを覚えています。最初に提示されたケース0。僕でもあっさりわかりましたが、それは医師国家試験の問題で96.5%の正答率だったというオチ。そういう教科書的な心電図には誰も困りませんよね、という前振りだったわけです。増井先生は、あくまで循環器科ではない一般の医師や研修医が悩むだろう心電図にフォーカスします。黒か白かはっきりしないグレーゾーン。循環器専門医のように完璧に白黒見極められる必要はありません。その広い灰色の面積をいかにより小さくするか、番組ではそのためのさまざまな増井流メソッドがつまびらかにされていきます。そのなかでも僕が一番わかりやすい!と目から鱗が落ちたのが「紙コップ」メソッド。12誘導心電図は胸部12カ所に誘導電極をはって心臓の動きを見ているわけですが、心電図ではそれが平面に並んだ波形として表現されます。それを立体的に理解するために、紙コップを心臓の左室に見立て、電極の位置をマーキングして実際の心臓のどこでその動きが起こっているかイメージするわけです。そうすることで、一見わかりにくい心電図でも12個の波形の本当の位置関係から所見が見えてくる(ことがある)。“コロンブスの卵”的はありますが、これが使える!その後、「心電図ハンティング2 失神・不整脈編」「骨折ハンティング」「血ガスハンティング」とリリースされた番組はどれも大好評で、増井先生はいまやCareNeTVを代表する人気講師です。その根底にあるのは、臨床現場からしか生まれない、初学者が実際に使える小さな知恵の集積なのだと僕は思います。9月23~24日の「ケアネットまつり」では、増井先生には「おまつりバージョン」として心電図クイズを生配信してもらいます。無料ですので、CareNeTVプレミアムの会員になっていない先生方も、Dr.増井流の粋をまずはライブで体感してみてください。 -
岡田正人スタイル、誰もが聴き惚れる名講義のカラクリ 2023/08/26
聖路加国際病院の岡田正人先生は、きら星のごとく並ぶCareNeTVのスター講師陣の中でもとくに視聴者の支持を集める先生です。コロナ禍以降、アナフィラキシーなどケアネットライブで何回か登場してもらっていますが、最新のシリーズ番組となると2019年リリースの「岡田正人のアレルギーLIVE」まで遡ります。岡田先生の講義スタイルはオーソドックスです。しかし、なぜか知らぬ間に引き込まれてしまうし、ともかくわかりやすい。知識がしっかり頭に刻まれ、心地よい”読後感”が残る。「アレルギーLIVE」の演出も、あまり下手な工夫をせず、ただライブで生き生きと話してもらうのが岡田先生の良さが一番出ると考え、そうしました。オンデマンドの番組ですが、だからタイトルもあえてLIVEに。このコラムを書くにあたって、ずっと気になっていた過去の番組も見てみました。「Dr.岡田のワインクリニック」。先生がフランス在任中に学んだワインについて指南する異色の作品です。制作されたのは10年以上前で、僕はまだケアネットに入社しておらず、企画にはまったく関わっていません。ちなみに、僕は今でこそ無類のChampagne loverとして周囲の人には知られていますが、当時は、シャンパンはおろかワインにもそれほど興味はありませんでした。ということもあり、その時は「ケアネットってこんな番組も作ってるんだー、へぇー」と思っただけで、とくに見てみようとは思いませんでした。番組は対談形式で、岡田先生がレストランのテーブル席でお相手の女性医師にワインに関する蘊蓄を傾けていきます。当然ワイングラスも傾けながら。シャンパンの回は、僕が最近よく飲み屋で知ったかぶってしゃべっているような話を、極めて正確に、あくまでジェントルに語っていました。勉強になるなー。これまた聴き惚れてしまった。そうなのです。岡田先生のレクチャーは、観ている、聴いている「私」にまさに語りかけてくる感じなのです。それこそ差しでワインを飲みながら。最近のビジネス用語的に言うと、1on1ミーティング風ということでしょうか。で今回、岡田レクチャーの妙は、ワインの蘊蓄話にありと勝手に(無理矢理?)結論付けてみました。9月23日〜24日のケアネットまつりでは、岡田先生の十八番の十八番、ライブ感溢れる膠原病の最新講義が無料で見られます。こちらも、ご自宅でワインでも飲みながらごゆるりとお楽しみください。 -
診断の名手・志水太郎は「眠れる巨人」を見つけられたか? 2023/07/29
A Sleeping GiantGoing from A to ZThe Hidden LesionCircling Back for the Diagnosisこれらの英語、どこから持ってきたと思いますか?すぐ答えを言ってしまいますが、かのNEJM(The New England Journal of Medicine)の名物コーナー「Clinical Problem-Solving」のタイトルなんです。初めて見たときは、学術的な医学ジャーナルなのに面白いタイトルの付け方をするんだなー、と思ったものです。またこれらは、CareNeTV番組「志水太郎の診断戦略ケーススタディ」の各回タイトルでもあります。この番組は、志水先生が「診断戦略エッセンス」で明らかにした、エラーなく的確な診断を行うための戦術や技法を、実際の症例のケースに適応して解説するものです。そこに、NEJMのケースが使った理由はシンプルで、志水先生に企画の相談をすると、先生が主任教授を務める獨協医科大学の総合診療科では、診断のトレーニングに「Clinical Problem-Solving」を教材として日頃から使っていると聞いたからです。さっそく先生にバックナンバーから適切なケースを選んでもらい、NEJMに転載許可を得て、番組化した次第です。選りすぐりの難症例に対して、志水先生が診断戦略の基本であるSystem1(直観的診断)、System2(網羅的・論理的・分析的診断)、System3(ラテラル・アプローチ)を駆使して挑んでいく様は、臨床推論の勉強になるだけでなく、推理小説にも似たエンタテインメント性があります。そして番組の最後には、NEJMのタイトル付けの妙にも膝を打ちたくなるでしょう。なお、各回タイトルは、「眠れる巨人」「Aから始まりZで終る」「隠された病変」「一周回って確診に」と訳しました。ところで、すでに告知を始めていますが、9月23日、24日の2日間にわたって、無料オンラインLIVEイベント「ケアネットまつり」を開催します。9月24日13時からは、志水先生が生で登場。プレゼンターが提示する症例を”やらせ”なし、ぶっつけ本番で解いていきます。ご存じの方も多いと思いますが、このやり方は、診断の神様と称されるローレンス・ティアニー先生の教育カンファレンスのスタイルです。ティアニー最後の直弟子を自任する志水先生が時間内に診断に到達できるのか?暑い夏が終わるころ、全医療者必見の熱いイベントが待っています。こちらもご期待ください。 -
ウオノメ、タコ、イボの違いは?難解な皮膚科の世界をクイズで身近に 2023/06/24
鶏眼、胼胝、疣贅。これらの漢字が読めるでしょうか?最後の「ゆうぜい」は比較的一般的な医学用語だと思いますが、前の2つは一般の先生にはひょっとすると難しいかもしれません。正解は前から「けいがん」「べんち」。それぞれ俗にいうウオノメ、タコのことです。(尋常性)疣贅はもちろんイボのこと。「皮膚科の病気は種類が多くて、しかも病名に難しい漢字が多いので、他科の先生はなかなか勉強しようという気にならないんですよね」皮膚科の先生と雑談していると、皆さんだいたいこんなことをおっしゃいます。冒頭の3つは、病名の漢字こそ難しいけれど、一般人も知っているコモンな疾患ですが、当然そうでないものが大半。それをほぼ皮疹だけから鑑別疾患を挙げなくてはいけないので、勉強する気が萎えるのも仕方ないかもしれません。一方で、皮膚症状は、一般内科の先生が日常診療で、患者さんからの訴えとして比較的頻繁に遭遇するものです。そのすべてを診断して治療することは無理だとしても、ある程度は対応できるようにしたいところ。このギャップを埋めるべく、難解な皮膚科の世界に一般の先生方が抵抗なく入っていけるよう、1疾患1問5分のクイズで構成したのが『Dr.安部の皮膚科クイズ』。誰もが診たことのあるメジャーな皮膚疾患を扱う初級編から、専門医も慎重に診断する必要がある上級編まで3ステップで学べます。タイトルの「タコ、ウオノメ、イボの違い」については初級編で解説しています。ごく簡単にいうと、ウオノメが真皮側に向かって表皮が楔状に増殖して痛みがあるのに対し、タコとイボは外側に向かって表皮が増殖し、痛みも痒みもない。タコとイボの違いは、タコは外観が平坦なのに対し、イボはカリフラワー状に小さい盛り上がり多数見える場合が多いこと。『Dr.安部の皮膚科クイズ』は、こんなシンプルなクイズ形式をとることで、皮膚科特有の小難しい感じがないためか、たくさんの先生方に支持されているCareNeTVの名作の1つとなっています。『Dr.安部の皮膚科クイズ 初級編』『Dr.安部の皮膚科クイズ 中級編』『Dr.安部の皮膚科クイズ 上級編』 -
高齢者では「とくに」身体診察が重要な納得の理由 2023/05/27
診断学の世界では「丁寧に問診をすれば8割がた診断がつく」と言われます。診断の達人と言われる先生方が、問診、病歴聴取を何より重視する理由です。それに比べ、画像診断機器全盛の現代において、身体診察は徐々に軽視されてきているのは否めません。僕自身の記憶でも、子どもの頃お医者さんに行くと、必ずシャツをめくって聴診器を当てられ、指でトントン叩かれていたことを思い出します。あれが「打診」だったというのはこの仕事をするようになって知りましたが、最近はクリニックに行ってもああいう診察をしない先生が多い気がします。しかし、身体診察が今も診断に有用なのは論を待ちません。CareNeTV番組『Dr.たけしの本当にスゴい症候診断』で世の臨床医を驚かした、Dr.たけしこと上田剛士先生は、「とくに」高齢者では身体診察の意義が大きいと言います。なぜなら、高齢者では認知機能の低下などから病歴が不正確になりがちで、問診では診断に必要な情報が聞き出せない場合があります。また、高齢者では鑑別すべき疾患が多い一方、そもそも身体機能が衰えているため、検査をすると異常が出てしまい、その結果、また検査をするといったように、検査の結果に振り回される可能性があるからです。そんな上田先生の思いを番組化したのが2018年にリリースした『Dr.たけしの本当にスゴい高齢者身体診察』。「発熱」「急性腹症」「心臓」「肺」「意識障害」「神経診察」という6つの症候・疾患領域で、身体診察の意義とテクニック、評価の仕方を実技付きで懇切丁寧に解説します。上田先生ならではのエビデンスに基づき診断確率を上げる手法はそのままに、高齢者ならではの診察方法を伝授しているのも特徴です。たとえば、上肢脱力を評価するBarre試験などは認知機能が落ちている高齢者ではできない場合があります。では、そうした高齢者にも施行できる試験は何か? 簡単で、目から鱗が落ちるティップスがいっぱいです。難しい心電図を瞬時に読めたり、CT画像からズバッと疾患を言い当てられる医師もカッコいいですが、そんな機械を使わなくても自分の身体を使って診断できてしまう医師はもっとカッコいい。そんな感想さえ抱いてしまう「本当にスゴい」1本です。 -
『感染症プラチナマニュアル』はなぜ“プラチナ”なのか? 2023/04/23
埼玉医科大学教授・岡秀昭先生の手になる『感染症プラチナマニュアル』(メディカル・サイエンス・インターナショナル:MEDSi)が今年で第8版になるそうです。感染症診療マニュアルとして、全医療者必携ともいえる高い評価を得ている同書。CareNeTVでもその評判にあやかり、いわば動画版として「Dr.岡の感染症プラチナレクチャー」をリリースしてきました。最初の「市中感染症編」の第1回公開が2018年1月なので、5年が経過したことになります。「プラチナレクチャー」の方もおかげさまで、CareNeTV屈指の看板番組に成長しました。CareNeTVのホームページでは月間、年間の視聴数ランキングとともに、全期間のランキングも掲載していますが、ついに同番組が1位まで登り詰めました。全期間なので、当然古い番組の方が累計が多くなり有利なので、5年で1位獲得というのはなかなか凄いことなのです。「プラチナレクチャー」がこれだけ人気を博しているのは内容の良さもさることながら、感染症という疾患領域の特殊性にもあると思います。診療科は呼吸器、消化器、泌尿器などおおむね臓器ごとに分類されていますが、感染症はそれらの臓器どこにでも起こり得る、臓器横断的な専門領域です。それでいて、大変コモンな病態なので「専門外だから」と言って無視することはできない。多くの症候でまず感染症を疑わなければならないし、他の疾患を治療中に発症しやすいのもまた感染症だからです。だから、感染症はすべての医療者に必要な知識であり、一度はきちんと学び、基本を押さえておかなくてはならないのです。さて、この記事のタイトルに対する解答です。『感染症プラチナマニュアル』はなぜ“プラチナ”なのか?これは、僕が今述べた感染症の特徴とは実は何の関係もありません。知っている人には常識でしょうが、その由来は、岡先生がかつて指導医をしていたJCHO東京高輪病院にあります。当時、先生が院内の研修医指導のためにまとめていたマニュアルが同書の原形であり、同院の最寄り駅が白金台だったことから(住所は港区高輪)、それを「プラチナマニュアル」と名付けたそうです。これは、ほかならぬ岡先生自身が先の「市中感染症編」第1回の冒頭で語っています。僕も収録のスタジオで初めて知りました。その出題を冒頭に持ってくる岡先生のセンスの良さに脱帽したのをよく覚えています(ひどく暑い日だったなー)。その後、MEDSiさんは感染症以外にもいくつかの疾患領域で「プラチナマニュアル」を発行していますが、そのネーミングの源流はすべて白金台に遡れるのです。というわけで、最後は「プラチナマニュアル」のブランドストーリーのトリビアでした。 -
臨床医が産業医として働くのは意外に難しい。その理由 2023/03/26
目の前にいる患者を診断して、病気を治す。これが医師が行うもっとも一般的な業務であり、世の中の多くの人がイメージする「お医者さん」の仕事です。9割以上の医師がこのような臨床医に該当すると思います。しかし、医師免許を持っていても、臨床に従事しない人もいます。大学や研究機関で研究に専念していたり、製薬企業で創薬に携わっていたり。行政官も数多くいますし、最近では、ヘルスケアビジネスを起業して実業界に進出する医師も目立つようになりました。もちろんこれらの医師は全体から見るとごく少数ですが、臨床以外の医師の仕事でもっともコモンなものは何だろうと考えてみると、それは産業医ではないでしょうか。産業医は50人以上の事業所に設置が義務付けられているので、必要数は膨大です。自ずと臨床と兼任している医師が多数派になります。しかし患者を診る臨床医と、企業と契約しその従業員の健康管理をする産業医では、求められる知識とスキルが異なります。2016年にリリースした『今どき産業医のマストKNOW』では、プロ産業医の大室正志先生が臨床の先生方に向けて、実際に産業医に求められる役割を解説しています。産業医の資格は医師にとても人気があり、日本医師会と産業医大が実施している認定研修会には毎回応募が殺到するというのは、医師の間では常識です。そのような定番の研修がしっかりある状況で、CareNeTVで番組をつくる必要がそもそもあるのかと当時思いましたが、大室先生にお話を聞くと、研修を受けて資格取得しても、臨床医が産業医として「いい仕事」をするのは決して簡単ではないとのこと。その最大の理由が「臨床医にとってのクライアントは患者なのに対して、産業医にとってのクライアントは企業である」というベースの違いにあるのだそうです。臨床医の先生方は当然患者のために働くわけですが、誤解を恐れずに言えば、産業医は個々の従業員よりもむしろ企業のために働かなくてはならない。ずっと患者を治すことだけを考えてきた医師には、そのマインドチェンジが意外とできない。当然と言えば当然ですが、改めてそう言われて、ちょっとハッとしたのを覚えています。『今どき産業医のマストKNOW』では、そのような視座から、産業医として必ず知っておかなくてはいけないこと、さらに、できなくてはいけない基本的なことをカバーしました。CareNeTVは「実臨床に役立つ」を旗印にしていますが、こんな臨床とは違った見方を提示するプログラムも用意しています。 -
妊婦にどこまで投薬できるか?この難問に具体的かつ丁寧に答えるガイドライン的番組 2023/02/25
医療というサービスを他のサービスと比較したときの大きな特徴は、それが基本的には人体に有害なものであるということです。手術などの侵襲的な医療行為だけでなく、一見非侵襲な薬剤の投与も同じです。どんな薬にも治療効果を期待する主作用とともに副作用があります。だから、どんな投薬もリストとベネフィットを比較考慮したうえでなされ、その判断が極めて重要であるため、医師や薬剤師という職業はどの国でも厳格な国家資格であるわけです。処方を決定する医師には広い知識が求められ、だからこそ、世界中でもっとも信頼される職業であるともいえます。そのような観点から、投薬の判断がとても難しい場面の一つが、妊娠中であったり授乳中であったりする女性に対してです。この薬はいいけど、この薬はダメ。とはっきり線引きできません。いや、催奇性があるからダメという薬は割とはっきりしています。「この薬は使っても大丈夫」と太鼓判を押すのが難しい。その判断の重みを思うと、OKと断言するのは、どんな医師にとってもとても難しい。むしろ、どんな医師も判断を避けたい問題だといえるかもしれません。『Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト』はその難問に真正面から向き合った番組です。最初、担当者から企画の提案を受けたとき「先生、本当にやってくれるの?」と思ったものです。だから、引き受けてくれただけでも水谷先生には尊敬しきりでしたが、完成した番組がまたすばらしい。よく使われる薬について、具体的に「これは安全、これは要注意、これは不可」と明示していきます。当然、科学的に、エビデンスに基づいて。「この薬は議論が分かれている」といった情報もありのまま提示し、あくまで実践的に真摯にこの難題に取り組んでいきます。たとえば、妊婦への抗菌薬については、ペニシリン、セフェム、マクロライド、クリンダマイシンは安全。アミノグリコシド、スルホンアミド、メトロニダゾール、グリコペプチドは注意。ニューキノロン、テトラサイクリンは原則不可といった具合。アモキシシリン・クラブラン酸については、有害事象報告に基づいて、必要性が高い場面に限るよう注意を促します。収録時点で収集し得た情報を駆使し、妊娠・授乳中に「使える」薬剤についてここまで「攻めた」コンテンツはなかなかないと思います。医師のみなさんが臨床現場でその難問に直面したとき、きっとガイドラインの役割を果たしてくれるはずです。ある意味地味ですが、臨床医学的に大変価値がある番組だと自負しています。 -
ブームを先取り?輸液の名人Dr.須藤が指した意外な一手 2023/01/28
CareNeTV講師陣のなかでも昔から大人気の須藤博先生。2008年にリリースされた「Dr.須藤のやりなおし輸液塾」は、臨床で使える輸液のコツがわかりやすく学べる定番番組として多くの医師に支持されてきた代表作です。しかし、2010年代も後半に入ると、動画としての古さを感じるように。輸液の基本はいつの時代も大きく変わるものではありませんが、須藤先生に、内容は変えずに新しく撮り直すことを提案しました。しかし、大船中央病院の院長にも就任し、多忙を極める先生。ただ撮り直すだけでは面白くないと、なかなか首を縦に振ってくれませんでした。そんなある日、別の企画でコミュニケーションをとっていた担当プロデューサーに、須藤先生の方から逆提案がありました。「輸液を大盤解説のように講義したら、わかりやすくて面白いんじゃないか」と。大盤解説?最初、僕は意味がわかりませんでした。「テレビの将棋番組で解説者が壁に張った大きな将棋盤で駒を動かしながら対局の解説するのを見たことありませんか?あれのことです」と聞いて、何のことかは理解しました。僕は将棋も囲碁もやりませんが、父親は囲碁が大好きで、日曜日にいつも熱心にテレビを見入っている姿を思い浮かべました。(あの形式で、解説すると、輸液がわかりやすくなるのかなぁー?)その時は正直あまりピンときませんでしたが、わかりやすい教え方に人一倍こだわりを持ち、稀代のアイデアマンでもある須藤先生のこと。きっと面白い番組になるのだろうと確信し「それで行きましょう」と企画が確定しました。しかし、須藤先生のイメージを実際に番組として具現化するのはなかなか大変で、担当プロデューサーとディレクターはかなり苦労していた様子。いろいろ考えた挙句、あえてアナログ感を出すために、CGではなく、紙で大盤を作成することになりました。できあがった「Dr.須藤の輸液大盤解説」は、期待通りとてもわかりやく、好評を博しています。須藤先生はご尊父の形見の大島紬を着こみ「ひふみん」になりきりご満悦。アシスタント役の白神真乃先生も女子アナ風にいい感じでサポートしてくれています。折しも世間は、藤井聡太五冠と羽生善治九段による「王将戦7番勝負」で大盛り上がりの最中。静岡の掛川で行われた第1局の大盤解説会には観戦希望の申し込みが殺到したと言います。今こそ、ブームに乗って、将棋な世界感で輸液を勉強してみてはいかがでしょうか?ってこじつけすぎましたね、はい。