このコラムの愛読者なら、僕に会ったことがなくても、僕がどんな人でどんなキャリアを歩んできた大方わかっていると思います。
が、今この文章をたまたま読んでいる大半の方は、そんな人であるわけもないので、簡単に申し上げると、大学を出て社会人になってからずっと(実に30年以上)医療関係者に向けたメディアでコンテンツを作って発信してきました。
で、タイトルにあるクイズの話です。
メディアには、雑誌であれテレビであれ、テキストであれ動画であれ、読者・視聴者に伝えたい「何か」がまずあります。それをより多くの人に届けるために(まあ、とりあえず見てもらうために)、いろいろ工夫をするわけですが、クイズはその代表的な方法といえます。アイデアとしては、もっともありきたりでもっとも凡庸なんですが、確実に効果がある。
人間というのは、目の前にクイズを提示されると、解こうとしてしまう本能があるようです。クイズにはなぜか人を惹きつける力がある。都内で電車に乗っていると、車内ディスプレーでいつもどうでもいいクイズが流れているのも頷けます。
僕らメディア側からすると、クイズはいわゆる“鉄板”の手法ということになります。
で、皮疹です。
医学的には所見の1つということになるでしょうが、血液検査や心電図、X線など他の多くの所見と異なる特徴があります。それは、検査しなくても見ることができることです。医師にも患者本人にも好むと好まざるとにかかわらず見えてしまう。
医師は、診察室でオーダーもしていないのに、まず提示されてしまうわけです。クイズのように。
熟練の皮膚科医は、その皮疹を見ただけで、聞いたこともないような疾患をあらかた診断できてしまいます。もちろん他の検査で確認するわけですが、その視診力ともいうべき技術に非皮膚科医は驚かされると聞きます。
「Dr.安部の皮膚科クイズ 中級編」は、そのような謎めいた所見である皮疹を鉄板の手法であるクイズで仕立てた番組です。ウケないわけがありません。制作は大変でしたが、高い評価をいただき、ロングセラーになっています。
初級編を前に一度ここで取り上げたので、今回はちょっと違った角度から紹介させていただきました。
なお、タイトルにある「惹力」というのは僕の造語です。辞書で引いてもありませんので、ご注意を。でも、意味はわかりますよね?