子どもの頃、目が腫れて目医者さんに行ったり、歯が痛くなって歯医者さんに行ったりするのは、普段お医者さんに行くのとは少し違う体験でした。幼少期の僕にとって、この3者は違う先生だったのです。後に、普通のお医者さんと目医者さんは医学部を卒業した同じ医師で、歯医者さんは医師とは違う教育を受けた歯科医師という別の資格だと知ることになります。
精神科医はもっと違うイメージでした。僕が生まれ育った町には精神病院がありましたが、おそらく多くの人がそうであったように、そこは少し近寄りがたい特殊な場所だと感じていました。精神科医は歯科医のように違う先生だと当然思っていましたが、基本的には同じ医師だと知ったときは驚いた記憶があります。
成人してこの仕事をするようになり、実にたくさんの医師の方とお話しする機会を得ましたが、診療科による性格の傾向みたいなものはやはりあると思います。良い悪いとかではなく、その診療科を選択しているのはその先生自身なので、一定の傾向が出るのは当然です。
そのような意味合いにおいて、他科の先生と異なる“その診療科らしさ”を感じることが一番多いのは、やはり精神科医かもしれません。身体の疾患を診る先生方とは、基本的な考え方や疾患に対する実際のアプローチの仕方が随分違うなーと思うことがよくあります。形而上的な思考をされるというか…その対極は整形外科医でしょうか?
一方で、1人の人間は身体疾患と精神疾患を同時に発症しうるし、各々に対してどのような介入が必要なのかは千差万別です。
「非精神科医のための向精神薬の使い方」は、精神科専門医の思考とアプローチを他科の先生方に案内する意図で制作しました。
うつ、不眠、不穏、せん妄、認知症など、非精神科医も日々遭遇し対応を迫られる疾患、症状。それらに対して薬をどう使えばいいのかが最も興味があるだろうと考え、向精神薬を軸にしました。しかしあくまで精神医学の視座でエキスパートが本質的な部分から解説しているのが大きな特徴です。
そのため、内容はやや専門的な部分もありますが、対症的な使い方から一歩踏み込んで向精神薬を理解し使いこなせるようになるのではないかと自負しています。
「基礎医学的知見からのアプローチは、“理解”を伴った処方に必須と思います。実践的且つ科学的なレクチャーをありがとうございます」。番組に対してこんなコメントを寄せてくれた皮膚科の先生がいました。まさに我が意を得たりで、うれしくなりました。
この番組は、構成はオーソドックスですが、他の番組とはちょっと違った趣きと味わいがあり、一見の価値ありです。番組のテーマもさることながら、誰が誰に対してどのような視点からどのように語るのか?その大切さを改めて考えさせられた、僕にとっても思い出深い作品です。