診断学の世界では「丁寧に問診をすれば8割がた診断がつく」と言われます。診断の達人と言われる先生方が、問診、病歴聴取を何より重視する理由です。
それに比べ、画像診断機器全盛の現代において、身体診察は徐々に軽視されてきているのは否めません。
僕自身の記憶でも、子どもの頃お医者さんに行くと、必ずシャツをめくって聴診器を当てられ、指でトントン叩かれていたことを思い出します。あれが「打診」だったというのはこの仕事をするようになって知りましたが、最近はクリニックに行ってもああいう診察をしない先生が多い気がします。
しかし、身体診察が今も診断に有用なのは論を待ちません。
CareNeTV番組『Dr.たけしの本当にスゴい症候診断』で世の臨床医を驚かした、Dr.たけしこと上田剛士先生は、「とくに」高齢者では身体診察の意義が大きいと言います。
なぜなら、高齢者では認知機能の低下などから病歴が不正確になりがちで、問診では診断に必要な情報が聞き出せない場合があります。また、高齢者では鑑別すべき疾患が多い一方、そもそも身体機能が衰えているため、検査をすると異常が出てしまい、その結果、また検査をするといったように、検査の結果に振り回される可能性があるからです。
そんな上田先生の思いを番組化したのが2018年にリリースした『Dr.たけしの本当にスゴい高齢者身体診察』。「発熱」「急性腹症」「心臓」「肺」「意識障害」「神経診察」という6つの症候・疾患領域で、身体診察の意義とテクニック、評価の仕方を実技付きで懇切丁寧に解説します。
上田先生ならではのエビデンスに基づき診断確率を上げる手法はそのままに、高齢者ならではの診察方法を伝授しているのも特徴です。たとえば、上肢脱力を評価するBarre試験などは認知機能が落ちている高齢者ではできない場合があります。では、そうした高齢者にも施行できる試験は何か? 簡単で、目から鱗が落ちるティップスがいっぱいです。
難しい心電図を瞬時に読めたり、CT画像からズバッと疾患を言い当てられる医師もカッコいいですが、そんな機械を使わなくても自分の身体を使って診断できてしまう医師はもっとカッコいい。そんな感想さえ抱いてしまう「本当にスゴい」1本です。